絵を上手く描けるのはうらやましいですよね。
今はPCやタブレットがあるので、手書きが苦手でも整った図解は誰でも作ることができます。
しかし、図解がきれいなことと、内容が充実していること、主張が伝わることはイコールではありません。いくら図の作り方、PowerPointの使い方をマスターしたところで、頭の中が整理できていなければ図にできないのです。
では、図解に必要な能力は何かというと、ロジカルシンキング、つまり論理的に考えられる能力です。
ロジカルシンキングの書籍は巷にあふれているため、手に取ったことのある方は多いのではないかと思います。今回はもう少し原点に立ち返り、”論理”について注目したいと思います。
先日、大規模書店を訪れた際に、数は多くないですが”論理”に関する本を見つけました。半数以上は同じ著者、野矢茂樹氏によるもので、超初心者向けから中級レベルのものまで揃っており、しかも大変わかりやすかったので紹介します。
今回は初心者におすすめの『ロンリのちから: 「読み解く・伝える・議論する」論理と思考のレッスン』を紹介します。野矢氏はNHK・Eテレ『高校講座』を担当していたそうで、そのわかりやすさがそのまま書籍になっています。
内容は三段論法から始まり、仕事や夫婦間でよくある水かけ論の解決方法、合意形成の方法などが詰まっています。
演繹法と帰納法
まず、論理展開で使う基本として、演繹法と帰納法を紹介します。
論理の立て方として、この2つを押さえておけば大半のケースは当てはまる、むしろこの2つの基本形に当てはめることで安定して論理を展開することができるようになります。
演繹法
演繹法は、「AならばCという大前提があり、BはAに該当するからCだ」という考え方です。
図解で示したのは有名な例ですが、「人間はいつか死ぬ」という大前提があり、「ソクラテスは人間」という事実により、「ソクラテスは死ぬ」という結論を導くものです。
この論法は自然科学に限らず、社会科学や法律の場面でも使えます。別の例として、「Aの犯罪は懲役C年」という法律があった場合、「Bの行為はAに当たる」ということが証明されれば、「Bを犯した人は懲役C年」と論理展開することができます。裁判官、弁護士を目指している方にとっては、法律を覚える以前に習得が必要な能力ですね。
帰納法
帰納法は、演繹法とは論理展開の方向が逆で、複数の事実から結論を導く方法です。
化学や物理では、実験や観察を重ねて仮説を検証していくことで定理が見つかるものです。
帰納法では、他人を納得させるだけの事実の集合が必要なのと、事実の中に例外がないことが重要です。
Aという病気のために5年で亡くなる方が二人いたとしても、それだけで「Aという病気の生存年数は5年」を信じる人は少ないでしょう。また、5年生きる人が100人、20年生きる人が20人、3年しか生きない人が30人の場合、それがAという病気によるものか、寿命や食事など別の要因によるものかはっきりしないと思います。
三段論法のよくある間違い
演繹法による三段論法は単純に見えますが、初心者がはまりやすい落とし穴があるので気をつけましょう。
ここではよくある「誤った前提」、「論理の飛躍」について紹介します。
この二つは日常生活で非常によく目にしますが、他の人がこれらのケースに陥っていることに気づくようになれば、あなたが三段論法を習得した証だと思って間違いありません。
誤った前提
視野が狭い人、視点が低い人、考えが狭い人、疑問を持たない人に起こりがちなのが「誤った前提」で、これはクリティカルシンキングができていないことを示しています。
「AならばC」という大前提がそもそも間違っており、そもそもAであってもC以外にD、E、Fがあり得ることに気付かないのが原因です。
論理の飛躍
プレゼンや会話の中で、「AだからCです」と言われて「???」となることがよくあります。
例えば、「売上が悪いので販売員を増やします」と言われたらどう思いますか?あなたは納得しますか?
「なぜ販売員の数が問題なの?販売員の数は足りているけど能力の問題はないの?プロモーションが足りずに来店客が少ないということはないの?商品に問題はないの?」と思った方は、論理の飛躍に気づいたことになります。つまり、”売上が悪い”と”販売員の数を増やす”の間に飛躍があるのです。
三段論法を正しく身につけることで、このようなことに気づけるようになるのです。
まとめ
気づいた方も多いと思いますが、演繹法、帰納法は勉強や仕事の場だけでなく、日常生活や夫婦間でも有益な考え方です。
あまりにも基本すぎて当たり前のように思えるかもしれませんが、正しく使えている人は多くないと思います。それは考え方の型として知っていないことが原因で、トレーニングすれば必ず誰でも習得することができます。
今回紹介した書籍『ロンリのちから』はわかりやすいだけでなく、演劇部を舞台にしたストーリー仕立てになっており、論理の型を楽しく身につけることができます。
興味を持たれた方は、ぜひ手に取ってみてください。