図解でわかりやすくお伝えする書評、今回取り上げるのは『教養としての地理』です。
今に始まった事ではないですが、米中対立をはじめとした地政学的問題、テロにもつながる欧米諸国と中東諸国の間の宗教や石油の問題は、ニュースで見ない日はないと言っても過言ではありません。
このような問題は根が深く、宗教、歴史、地理など幅広く繋げて知識を広げなければ理解しきれないでしょう。
『教養としての地理』は東進ハイスクール講師の山岡信幸氏によるもので、予備校の講師だけあってわかりやすさはピカイチです。最近は『教養としての〇〇』というタイトルの本は多数ありますが、中には小難しいものや読みづらい翻訳書もある中で、本書のわかりやすさは群を抜いています。そのため、時事問題を理解したいビジネスパーソンから受験や勉強の基礎知識をつけたい中学生・高校生に広くお勧めできます。
内容紹介
それでは、2つのテーマを取り出して本書で書かれていることを紹介します。
いずれも地理?という内容に思えますが、資源、地形、気候はもちろんのこと、歴史、思想、宗教も絡んできます。むしろ教科書に書いてあるような地理の範囲だけでは本当の理解にはつながらないのです。学校の地理でも幅広くは習うものの、無味乾燥で繋がりが見えない、つまり必然性が見えなかったためおもしろみに欠けていたのです。地理はおもしろく、役に立つのです。
輸送の発達
国をまたいだ輸送において、ロシアの北側である北極海航路を利用できるようになったことは大きな変化でした。 従来は日本の航空便は北極海航路を飛べませんでしたが、それは対立する国家思想によるものでした。ソビエト連邦(現在のロシア)は共産国家であったため、アメリカや日本のような資本主義国家は対立していたのです。私のように40代の人はご存知だと思いますが、米ソ冷戦時代だったのです。しかし冷戦の終結により、航空機はシベリア上空を飛べるようになり、従来より距離、時間の短縮が可能になったのです。
船便もまた、北極海航路において同じような変化がありました。ただし、こちらの原因は地球温暖化によるものです。従来は北極海は氷に覆われていたため、船便の航路として使うことができませんでした。しかし皮肉なことに、北極海の氷が溶けることで航路として利用できるようになったのでした。こんなところまで地球温暖化が影響しているとは、他人事にはできないですね。
中東湾岸諸国の脱石油
中東の湾岸諸国といえば、石油の原産地、オイルマネーで裕福な国というイメージを持つ方が多いんじゃないでしょうか。私もこの本を読むまでは、そのことを疑いもしませんでした。しかし時代の変化とともに、数十年前と今では大きく異なっています。
アラブ首長国連邦の輸出に占める原油の割合は1996年に62%、2018年に12.4%と大きく低下しています。これはアラブ首長国連邦に限らず、湾岸諸国が原油に依存するモノカルチャー経済の不安定さからの脱却を狙った戦略的なものだったのです。
原油に依存したモノカルチャー経済の課題はとして次のようなことが考えられます。
- 限られた埋蔵力による生産量低下
- 原子力発電の普及や地球温暖化問題による再生可能エネルギー代替による需要低下
- シェールガスの開発による国際価格低下
これらによる経済的リスクを回避するため、湾岸諸国は石油を利用したエネルギー集約産業の開発に取り組んできたのです。 大量に必要となる電力を石油による火力発電でまかなったアルミニウム製錬を始め、ドバイの都市型リゾート、UAEやバーレーン、カタールによる観光・サービス・物流・金融がそれに当たります。
まとめ
いかがだったでしょうか。
「へー、そうだったのかー」と思うこともあったんじゃないでしょうか。物語のようにつながりを感じ、おもしろいと思っていただけたなら幸いです。
学生時代はつながりを意識せずに大量に暗記してましたが、テストや受験を目的にしていたこともありおもしろく感じたことがありませんでした。しかし本書のように一つの出来事の背景に発見があり、つながりを理解することでおもしろいと感じることができました。おもしろいから理解が深まり、記憶に残り、一層興味が湧いてくるのではないでしょうか。
納得いただけた方はぜひ、本書を手に取ってみてください。そして学びを楽しんで継続してください。
おまけに今回も、書評の作成プロセスで作ったマインドマップを公開します。以下の記事をご覧ください。